カキランとコバノトンボソウ ’18.6.17 晴

 花好きの方々にはやっぱりラン科の人気度が極めて高いだろう。今回も三~四種のランが見られるだろうと花歩きと山歩きのお好きな人たちにお集まりいただいた。見事に咲いていたネ~!、カキランの咲き初めが華やかに待ってくれていました。蕾もいっぱいつけ開花とそろい、唇弁の色あいが見事に柿色の模様がついたカキランの満開は、これからしばらく楽しめることだろう。

 さて、今回も阪神方面の方がおいでのために、こんな話も聞いていただいた。神戸市には鈴蘭台というユニークな街名があるのは知る人ぞ知る話だが、そもそも開発以前のその方面にはカキランの花が多く咲いていたのだ。そのカキランの開く花の前につける蕾状態の様子が鈴の姿に似ているところから、カキランの別名でスズランという名がついたと謂われるのだ。そのあたりから鈴蘭台という名がついたといわれるにもかかわらず、昨今では本来のカキラン(別名スズラン)のことは住まれる人たちですらすっかり忘れられたようで、花のスズランからの街の名の謂れのように思われているらしいが、本来の謂れは花のカキランの別名からの鈴蘭台であったのを知っていただきたいものだ。

         
     カキラン(ラン科カキラン属)    

 このランの花は日当たりのよい湿地に生える多年草である。そんなことからあたりの雑草との日当たりのせめぎあいの自然の中でたくましく咲いてはいるが、それも限度あり毎年順調に咲いてくれるにはある程度の人の手による保護への手助けも必要であろう。
 昨今の咲きぶりを見ていると、やや個体数の減少気味なのがそのあたりが原因だろうと心配でもある。毎年楽しませていただいている感謝の面からも、そろそろ立ち上がるには決して早くはなさそうだ。もちろん、これはカキランの種だけではなく、他にもいろいろな顔を見せてくれ、多種にわたる花たちそれぞれみんなのためであろう。今秋あたりからその間をつくってそろそろ出番だね・・と心したい。



 もちろん、今回はコバノトンボソウも咲きだしてくれており、さらにもっと満開状態となることだろう。ところがこの花はオオバノトンボソウとは大きく相違し、花全体が極小さめでなよなよと華奢なために、少しのそよぐ風にもジッとしてもらえない。そんなことからの愛おしさも尚更であろう。花好きな人たちみな思うは一緒で、ワイワイがやがやと賑やかに楽しいひとときだ。

 ところが、花好きな方の中には「アッ、トンボソウだね・・」と至極簡単に呼ばれる方があるのは残念だ。スミレと同じで、正式名称『トンボソウ』との名前で世に出ている花もあるのは案外知られてなさそうだ。そのトンボソウはツレサギソウ属の仲間ではなく、列記としたラン科のトンボソウ属で、コバノトンボソウやオオバノトンボソウとは仲間違いなのも知っておられると、さらに仲間意識が膨らんで心嬉しくなるこんなわたしなのだが・・。

 さてさて、コバノトンボソウこの花はツレサギソウ属の一員で他の仲間も数多い。里山から山地、亜高山帯よりさらに高山方面へと分布域も広く、なかなか確たる同定には手を焼く種の部類でもあるのだ。そこで主たる種の分かりやすい同定ポイントを確認してみよう。要するにこの仲間は概ね距の姿を見ることが大事なよう。

正面から見て花びらが輪になったもの = コバノトンボソウ(湿地に生え、距は細長く上向きに跳ね上がる)
                              ホソバノキソチドリ(亜高山帯の日当たりの良い草地、距は細長く下方へ曲がるかやや前方に湾曲)

②正面から見て頭の上に庇状に背ガク片が被さって花びらが中にあるもの = ツレサギソウ(白色花、唇弁基部の両側にある小突起が最大の同定ポント、距が垂れ下がる)
                                                   オオヤマサギソウ(側萼片は左右に折れ曲がって上をむく。また、 距は細く2cmと長くなり、後方につきでて反り返る)

③正面から見て花びらがつののように飛び出てバンザイしてるようなもの = キソチドリ(亜高山帯以上分布、距は10mm以下と短く下垂し前方に湾曲)、オオキソチドリ(短い距は下垂し前方にやや湾曲する
                                           = ヤマサギソウ(側花弁がバンザイの点景、距が2cmにもなって後方に跳ね上がり日本刀のように反る)
                                           = マイサギソウ(ヤマサギソウの変種で、距の先半分ほどが持ち上がるのが特徴)

 
コバノトンボソウ(ラン科ツレサギソウ属) 


 本日最後のラン科のトキソウだが、さすがにこちらはもう終焉となって、その個体数も数えられるほどで寂しい。でもわたしは先日、別地での綺麗処のトキソウの大群落が頭に残っているためにその余韻で喜びは消えていない。今日の場ではそんな話はもちろんできなかったが・・こちら一人だけでご免なさい。

 
 トキソウ(ラン科トキソウ属)


 続いて、草本類だが、ノハナショウブにモウセンゴケ類の咲き初めが始まっていた。さすがに花期の短いササユリは終了で辛うじて残花があるもアップに耐えない。それに花期の長いシライトソウがまだまだ咲き残っているも、さすがにそろそろこちらも終了となろう。

         
 ノハナショウブ(アヤメ科属)*1   ササユリ(ユリ科ユリ属)    シライトソウ(シュロソウ科シライトソウ属) 
         
 モウセンゴケ(モウセンゴケ科属)*2   トウカイモウセンゴケ(モウセンゴケ科属)    同左の葉柄と葉のようす 


*1 アヤメ科の仲間は概ね4種を覚えればいいので少ないから助かる。同定ポイントは外花被片の中央基部の斑紋を見よう。

・アヤメ=網目模様が黄色く、わたしは「阪神」と覚えているのだが・・。
・ヒオウギアヤメ=これのみ亜高山帯の高地湿原地で低山には見かけないだろう。内花被片が小型で目立たない。
・カキツバタの斑紋は黄色でなく白色であり細長い。古より『いずれアヤメかカキツバタ』といわれるもそれは美人の例え、同定面では花の基部における斑模様で一目瞭然だろう。
・今回のノハナショウブ=斑紋は黄色。ハナショウブはノハナショウブをひとの手によって改良した園芸種だろう。
 この外にヒメシャガやエヒメアヤメもあるが、アヤメ科の一員なれど、アヤメ等とはやや威風なり、山人との出会いはそんなに多くはない。また、帰化植物のキショウブだが、こちらは黄色のアヤメだから説明不要だろう。


*2 その点で、モウセンゴケ科はややこしい。同定ポイントは花色と葉柄の先の膨らみの姿を見よう。

モウセンゴケ=花は白色で、葉は長い葉柄先がしゃもじ形といわれるもフィールドでは容易にその葉の区別はどうかな・・?、でも見慣れれば分かるようになろう。
・イシモチソウ=花は白色で花弁も一番大きく花期が一番早きで目立つ。でもやっぱり、葉は独特の造形美が目立つので葉姿を覚えたい。
トウカイモウセンゴケ=関東地方が主体分布のコモウセンゴケは関西圏ではほとんど見ない。でもその変種のトウカイモウセンゴケの花は淡紅色でコ・・と同色、葉が短い葉柄は基部がしだいに細くなって柄に続き、全体がへら形なのがコ・・で、トウカイ・・は葉の先がスプーン形といわれるもその見分けは容易ではない。しかし、関西圏では花色と短い葉柄を見れば分かりやすいだろう。


 もう一つの可愛い黄花は、帰化植物といえどもわたしの好きな咲き初めの花が草刈りされてしまって、まともな花は残ってはいなっかった。やむなく以前撮ったキバナノマツバニンジンの花を貼ろう。この花は在来種のマツバニンジンに似て花が淡黄色であることからの和名だが、なかなかもって可愛らしい黄色花ではなかろうか。

 
北アメリカ原産のキバナノマツバニンジン 


 最後に、木本類の一部を見よう。果実のスノキ属の二種だ。

*1スノキの果実色=最初はもちろん果実は緑色につくが、その後は赤色(短期間)から黒色で熟す
*2 ウスノキの果実食と角張る実=緑色からいきなり赤色で次第に熟していく

         
 スノキ(ツツジ科スノキ属)*1 ちなみに17.5.10のスノキ花    ウスノキ(ツツジ科スノキ属)*2  こちらは17.4.28のウスノキ花 

 ホームヘ

inserted by FC2 system