京都西山 晩秋のポンポン山 ’18.12.5 曇
そのようなことで、今回はそろそろヒイラギが咲いているだろうと足を伸ばしてみたが、残念ながら今年も裏年のようで花は皆無であった。どうやらこの種の開花は数年に一度のようで、相当古くから見ているがこれまでに二度しか花に出会った覚えはない。その花は5mm程と小さな白花を咲かすが、過去も寒風吹きすさぶ中で震えながら観察したのが忘れられない。
このヒイラギは雌雄別株なために、ここでは雄株とみえて翌年の6~7月に紫黒色に熟すといわれる果実は見ていないというより知らない。思うにこの種の幼木は方々で見かけるのだが、花が咲くほど大きく成長するには年数が必要とみえ、ほとんど成木すら見かけない。ちなみにこの個体は高さ3~4mくらいだろうか。いずれにしてもヒイラギの開花は庭木や公園樹であれば見られるのだが、自然の中において出会えるハイカーはそんなに多くはないだろう。開花する個体数の面から希少種ではと思える。
さらに花を求めて目を凝らせども、ツルシキミも蕾ばかりであった。それは当たり前だ、開花は4月ころからとなろうから蕾期間が長く、それに引き換え開花期間はそんなに長い間は咲いてくれないと思われる。それに真っ赤な果実がこの時期から厳寒の2月頃までよく目にするのだが、今年は先の台風でだろうが、その赤い実は一粒だに目にすることはできなかった。もちろん、この種も雌雄別株である。
ヒイラギ(モクセイ科・属) 柊 |
ツルシキミ(ミカン科ミヤマシキミ属) 蔓樒 |
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若い枝部分の葉には鋭い棘状の鋸歯となるが、古くなれば縁の棘はなくなる | 今年は赤い果実は皆無で花の蕾ばかりだ |
さて、今回は稜線部分では樹々の葉もほとんどが枯れ落ちてきているのだが、とりわけ大木が目につくこととなっていた。西山山塊では樹種はそんなに多くはないようだが、古木らしい風格の樹々をピックアップしてみよう。
カナクギノキ(クスノキ科クロモジ属)① | ウリハダカエデ(ムクロジ科カエデ属)② | ケヤキ(ニレ科ケヤキ属)③ |
①カナクギノキは低山にふつうに見られるが、名の謂れが釘のことではなく、樹皮が鹿の子模様の鹿の子がなまったものといわれており、樹皮があまり美しくはなく他にはないような独特の姿である。しかし、葉は細長い流線形で目立ち、秋の黄葉時は素晴らしい。
②ウリハダカエデはどちらでも見られるのだが、しかし、これだけ太く背の高いウリハダカエデはここ以外には出会っていない。図鑑にもまれに高さ20m、直径70cmに達するものもあると説明されている。しかしながら高さの面で先の台風被害により上部がことごとくへし折られていたのは残念だ。今度は幹の太さを計るように準備したいものだ。
③ケヤキは比較的個体数多くはない種だろう。それは過去に家屋の大黒柱等への必要性高く、伐採多しで成長が追いつかなかったのだろうか。でも、こちらには相当の古木が二本並んで残されている。なんとか伐採を免れ後世にまで残されることを祈りたい。
ツガ(マツ科ツガ属)④ | アカガシ(ブナ科コナラ属)⑤ | イヌブナ(ブナ科・属)⑥ | クヌギ(ブナ科コナラ属)⑦ |
④ツガは常緑針葉樹でこちらの山域では個体数は多くはない。雌雄同種であり、これだけの大木だがあたりには幼樹は見かけないのも不思議だ。もっとも高木樹は普段から葉や花の確認が容易ではないために、同定が出来ずにいるのが本音だろう。この木の同定は低い枝の葉から分かった。もちろん、マツ科の同定では、葉は当然だが樹下には球果が落下しているのでこの点も見たい。特にツガの球果も曲がる果柄が独特のために覚えやすいのですぐに分かる。
⑤アカガシも高木となり、ハイカーには目につきにくい。ただ、手の届く位置に葉があれば、ふつう全縁で鋸歯はほとんどないのでこれを覚えよう。ただし、古木であれば樹皮が独特の姿で今にも剥がれそうな点を見れば一目瞭然だろう。もちろん、ブナ科の花は高木のために手に取っての観察はほとんど容易ではない。せめては堅果である果実を見よう。とりわけその中で穀斗の姿を観察するのも楽しいひと時だ。
⑥イヌブナももちろん高木だ。ただ、愛宕やポンポン山山塊にはブナは見当たらず、イヌブナが分布しているだけだ。ただ、近郊の北山や比良では両者が見られるために双方の違いは知っておきたい。花や葉で確実に同定するにはやや知識がいるが、木肌や果実等で同定はしやすいだろう。
⑦クヌギはコナラと違い、こちらの山域では個体数が極めて少ないと思っていた。もちろん、つい60年ほど前まではコナラやクヌギの落葉広葉樹たちは薪炭材として人々の生活必需品であったのだが、生活のエネルギーが石油、ガス、電気などに急速に移行のため、雑木林は放置されて今では里山は見る影もない。
今日はいつも通る道に絨毯のように落ち葉が積もっているのを見て、「ヤッ、これはクヌギだ・・!」と驚かされた。実はこちらの里山にはコナラはあってもクヌギは過去にすべて伐採されて全滅したのだろうと思っていたが、どうやら高木すぎて普段からこの木はクヌギだなとは確認した覚えはなかったのだ。というのも葉は分かっていても細かく観察出来ていなかった。これからはこの個体を時期毎に丁寧に観察していきたいといい反省点ができた。
さて、稜線上で珍しく残り紅葉が目についた。そうだ、ここのカエデは「コハウチワカエデだ・・!」 と場所で分かる。見上げれば4~5mの高さで寒風に揺れていたのだが、やっと撮ってみた。離れた箇所にもきれいなウリカエデの紅葉が残っていたのもうれしい。
コハウチワカエデ(ムクロジ科カエデ属) | ウリカエデも紅葉がきれい |
そろそろ、木の実も終盤となってきたようだ。
ヤブムラサキの実は遅くまで残るよう | コバノガマズミも最終だろうか・・ | オオアリドウシの赤い実も緑の葉に目立ち⑧ |
⑧オオアリドオシ(アカネ科アリドオシ属)別名ニセジュズネノキはアリドオシとほとんど見た目は変わらない。相違点は棘の長さが母種のアリドオシより短く、葉の半分以下しかない。また葉はアリドオシよりやや大きく、葉身の長いものは6cmにもなり、幅も2cmと広い。でも葉柄は1~3mmと両方ともほとんどないほどだ。
棘の長さ | 葉身の長さ | 葉の幅 | 葉柄の長さ | |
オオアリドオシ | 2~6mmと葉の半分以下 | 2~6cm | 6~20mm | 1~3mm |
アリドオシ | 8~20mmと葉と同長か長い | 7~20mm | 6~12mm | 1~3mm |
最後に野草類だが、本日のお目当てだったガガイモの種髪はまだ見られなかった。でも果実は合計で10個もぶら下がって見られた。なお、ミヤマウズラはラン科の中でも常緑の多年草であり、この寒い中に白い斑がきれいな姿で結構見られた。しばらく群落で咲くほどの開花を見ていないミヤマウズラだ。来年こそ開花が待ち望まれるのだが・・。
種髪がまだ不発だったガガイモの実 | 常緑の葉が美しいミヤマウズラの葉 | 冷たい風に泣かされた昼だった |